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狩りを終えて無事村に帰り、一息つく狩人は何を想うのか。 ここはそんな机の上・・・。
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峯山龍ジエン・モーランが執拗に体当たりを繰り返す。
これより少年は、大砂海の巨山を踏破しなければならない。




            熱砂の勲章


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峯山龍狩猟の古い慣わしに、こんなものがある。

初めてジエン・モーランに挑む者は、その背の宝を船に持ち帰って一人前とする

一種の度胸試しだ。
狩猟の最中、船団により誘導し、併走させた撃龍船からジエン・モーランへ上陸。背中を伝い背ビレにある鉱石を採り、船まで持ち帰る。
ひとたび振り落とされれば大砂海へ真っ逆さま、大怪我はもちろん命まで落とす可能性だって高いだろう。そんな場所へただ一つの鉱石を求めて向かうなど、狂気の沙汰以外の何物でもない。

今正に、少年はその巨山を見上げていた。

(…ありえない)

視界に収めるだけでも苦労する大きさに、この速度。少年の“怖い”という感覚は至って正常なものだ。
あの背に登る?宝を取ってくる?馬鹿げているどころの話ではない。

二つの船団がジエンを挟むように回り込む。船とジエン・モーランとの距離は次第に近づいてくる。
奴はこちらに標的を定めたのか、身体の軸をこちらに傾けた。

(こっちに来る!)

そう感じた少年の後ろから、耳が割れそうな程の大銅鑼の音が鳴り響いた。峯山龍との距離は肉薄し、人の脚でも精一杯跳べば届く距離。そんな刹那の間に大銅鑼は鳴り、峯山龍の動きが寸前で止まった。
そしてベテランのハンターたちは次々と峯山龍を目指して駆け出していく。彼らは背中から直接攻撃を仕掛けるつもりなのだ。

しかし少年の脚は動かない。極度の緊張からか、銅鑼の音に硬直してしまっている。あるいはそのフリをしているのか。
それに見かねたのか、指揮担当の若い迎撃隊員が少年の下へ寄る。

「絶対に生きてこの船に帰してあげる。男の子でしょう、行ってきな!」

少年が迎撃隊員の顔を見上げたのと同時に、数人のハンターたちが次々と少年の頭を叩き、そのままジエン・モーランへ駆けて行った。

「ついて来いってよ」

少年は覚悟を決めた。ピッケルを腰に差し、引きつりそうな顔で吠え、前へ脚を出した。つんのめりそうになりながらも耐える。視線は峯山龍ではなく、前を走る背中だけを見る。そうしなければまた脚が止まりそうで怖かったから。

そして少年は跳んだ。峯山龍の体上で待っていてくれたハンターに腕を掴まれて無事上陸を果たした。
こっちだ、とベテランが人差し指でサインする。しかし上陸してからも、というより上陸してからのほうが怖くなって当たり前だ。甲殻はゴツゴツと隆起し、キメ細かい砂を纏った体表は脚を取る。
途中何度か脚を滑らしながらも、それでも少年は踏ん張り、“宝”の在り処までたどり着いた。

ふと後ろを振り返り船を見てみると、さっきの迎撃隊員は船員たちに何か指示を出していた。
呼吸を切らし鼓動は大銅鑼のように鳴り続けるが、長居はしたくない。すぐさま震える手でピッケルを取り出し、空色に輝く鉱石を叩く。落としそうになるその鉱石のカケラを手にしたとき、これまでの恐怖や苦労などそういったものが全て吹き飛んだ気がした。

その瞬間、地面が揺れた。背中への直接攻撃にたまらなくなったのか、峯山龍は頭を沈める。ハンターたちを引き剥がそうと、“跳ぶ”つもりなのだ。
無論その背にいた者は全て、大砂海へ叩きつけられるだろう。

(振り落とされる!)

そして少年は目を閉じる。二度目の覚悟を決めて。
撃て、と遠くに霞む声を聴きながら。

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挟み込んだ二つの船団から放たれたバリスタ・アンカーが、ジエン・モーランを大地に縛り付ける。砂海の空に浮かぶはずの峯山龍は地にひれ伏した。

「戻るぞ!」

ベテランハンターに怒鳴られ、少年はようやく事態を理解した。その背中を追って今度は山を駆け下りる。
足場が悪い上に峯山龍はアンカーを引き千切ろうともがき続ける。
少年の脚があと一歩、というところで地面は大きく揺れた。ジエン・モーランがついに痺れを切らしたのか。

船の上では船長であろう男が叫ぶ。

「限界だ、拘束を解け!」

命令は船員に渡り、角笛を通じて各船へ伝令される。バシッという蒸気の音とともにワイヤーが切り離され、距離が徐々に開く船と峯山龍。一人の狩人より一つの船と乗組員を取った船長を、少年は睨みながらも三度目の覚悟を決めようとした。

「跳びなさい!」

あの迎撃隊員が手を広げて船の端に立っていた。考えている時間があるはずもない。

(何度死ぬ気になればいいんだ、狩人ってのは)

少年は覚悟を入れ替えて、砂の空を跳んだ。


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以上がロックラックに伝わる、「熱砂の勲章」と言われる小話である。
ロックラックの狩人たちは皆、この儀式を以って一人前とみなされる。故にジエン・モーランが街に近づくと、ある者は奮起し、ある者は顔に砂煙が差す。

話の中の少年や船はどうなったのか?
その話は、今これを読んでいるあなたにぜひ続きを書いてもらいたい。


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全ての狩人に勇気と誇りと幸運があらんことを。
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シュガー
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男性
自己紹介:
新大陸にて狩猟活動中。
狩人の矜持と思い出は十年の時を越える。
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